相続のことを考えるウチナーンチュの皆さんへ
相続における遺産の中で、不動産は大きな価値のある財産の一つです。
遺された家族にとっては、衣食住の一つ「住」を確保するためにも重要な財産となります。
しかし、その住となつ不動産の相続は価値があるからこそ、相続で問題になることも多いのです。
沖縄特有の相続事情の一つについて、解説します。
不動産は分割しにくい相続財産
これまで数多くの相続相談、相続手続き、遺言書作成支援を受けてきましたが、遺産に不動産が含まれない案件のご相談は5%にも満たないと思います。
多くのケースで遺産には不動産は含まれています。
そして、この状況が相続を難しくしていることもあります。
沖縄の相続財産は、不動産の割合が高く、分割するのが結構大変だったりします。
令和2年度の相続税の申告における遺産に占める不動産(土地・家屋)は、全国平均が約40%であるのに対して、沖縄は約73%となっています。
沖縄の遺産に占める不動産の割合が高いことは遺産分割の難しさにもつながっています。
ちなみに、相続税の申告割合ですが、全国平均は8.8%で、沖縄は約6.7%です。
上記の遺産に占める不動産の割合については、相続税の申告のあった案件についてです。
ですから、相続税の申告が必要なかった相続税の基礎控除内(3,000円+@600×相続人の数)まで、含めるともしかしたら遺産に占める不動産の割合はもっと大きくなるかもしれません。
では、なぜ、遺産に占める不動産の割合が大きいと相続が難しいのでしょうか?
土地が複数あって、相続人全員に不公平なく、相続できるような状況ならばいいのですが、そうでないケースもあるでしょう。
2つの例をあげます。
妻と子が相続人となる場合
例えば、ご夫婦、子供二人のご家族で、お父さんが亡くなり、相続財産は住居用土地と家屋、それにいくばくかの預貯金があったとします。
不動産の評価は2,500万円で、預貯金が500万円、合計3,000万円の相続財産だとします。
法定相続割合に従うと相続人の妻は1,500万円、子供二人が1,500万円をわけあうことになります。
通常は、残されたお母さんの住むところや生活資金となる預貯金を子供たちが強硬に「自分たちにも分割しろ!」とは言ってくることは、あまりないと思いますが、相続は何が起きるかわかりません。
中には強欲な、もしくは縁の遠くなった子供たちがいると大変な状況になることもあります。
もし、子供たちが自分たちの権利を主張してくると上の例では、相続の時に現金が500万円しかありませんから、妻が居住用不動産を相続することとすると、子供たちに法定相続分に充足するような遺産分割をするとなると不動産を処分し分割(換価分割)するか、妻が自分の財産から支弁(代償分割)する必要もあります。
一般的には、お母さまも子供たちよりは、早くに亡くなる可能性が高いですから、土地は子供たち、建物と預貯金はお母さんが相続する、ということもありかもしれないですね。
または、土地と建物は子供たちが相続し、お母さんにそのまま住んでもらい、預貯金はお母さんが相続し、お母さんが亡き後に不動産の分割方法は考えるということもひとつでしょう。
なお、後述しますが、遺された配偶者の生活する場所を確保するための「配偶者居住権」が、2018年の民法改正の際に創設されていますので、そちらを活用することもお勧めします。
なんにせよ、お父さんが亡くなった後のお母さまの生活に支障がないようにするのが、大事なことです。
子供だけが相続人となる場合
例えば、上記の例でお父さんの土地、建物や預貯金など全ての財産をお母さんが相続し、長男家族が一緒に同居するようになったとします。
その数年後に、お母さんが亡くなりました。
相続人は子供二人です。
お母さんの財産は、土地、建物と200万円ほどの預貯金だけでした。
長男は妻を説得し、同居しながらお母さんの介護をしつつ、生活をし、家には仏壇もあるし、この土地は自分が相続し、守っていく気でいました。
ただ、相続が発生した時には、土地の価格も高騰しており(約4,000万円の時価)、もう一人の相続人のである二男は、自分にも2分の1は相続する権利があると譲りません。
長男は、せめて200万円の現金で二男には納得してもらえないかと、協議しますが不調に終わり、二男の相続分に相当するような金銭を支払うこと(代償分割)も考えましたが、かなり高額(約2,000万円)になり支払うこともできません。
結局は土地と建物を売ってお金に換えて分け合いました(換価分割)しました。
長男がも守ろうとした、先祖代々続いた家屋敷は失われたのです。
ひとつ付け加えさせてもらうとすれば、妥協して土地や建物を2名(長男と二男)の共有にするといったことをすると、後々発生する相続で問題も生じる可能性があります。
いずれは、子供たちも亡くなり、相続が発生しますから、その時に新たな土地や家屋をどのようにして分割するかの問題が出てきます。
不動産はできる限り、共有にはしないほうがいいのです。
そんな事情から相続がうまくいかずに、所有者不明の全国で空き家や空き地問題につながる一因となっているようです。
民法で創設された配偶者居住権について
居住用不動産の相続に関しては、上記のような例により、遺された配偶者の生活に支障が出ることがあったことから、配偶者の居住用不動産については、平成30年(2018年)の民法改正により、配偶者の居住権を保護する方策が設けられました。
遺された配偶者が、被相続人の所有していた建物に居住していた場合には、遺産分割、遺贈(遺言書による)又は死因贈与によって、その建物の使用及び収益をする権利を取得できるようになっています。
これを「配偶者居住権」といいます。
遺産分割において、協議がととなわない時には、遺産分割の請求を受けた家庭裁判所は、一定の要件を満たせば、配偶者居住権を取得させることが出来るようになっています。
できれば、居住用不動産(建物)またはその配偶者居住権について、遺言書で配偶者に相続させる旨を書き遺した方が得策でしょう。
そうすることで、遺された配偶者の生活を守ることも可能です。
また、配偶者居住権については遺留分(相続人の相続する最低限の権利)についての対応も可能ですので、上手に活用したいですね。
詳しくは法務省のサイトをご確認ください。
遺言書で遺産分割の方法を指定する
相続財産に占める不動産の割合が高いケースには、留意する必要があることはお判りいただけたと思います。
相続財産が、不動産が主である場合には、しっかり遺言書を書いて意思を示したほうがいいと思います。
相続人同士が話し合うと難しい話も遺言書があれば、案外すんなり決まることもあるかもしれません。
先の例でも、お父さんが遺言書に、
「全ての財産は、お母さんに相続させる。
(付言事項)お母さんの死後は、長男の沖縄太郎が相続することを望むので、お母さんも遺言書を書いてほしい。」
などと書いておくといいかもしれないですね。
ただ、遺言書は万能ではありません。
全てのケースについて、相続人に納得してもらうことは難しいこともあります。
どんなに想いを込めて書いた遺言書があっても、納得しない相続人がいれば、争いになる可能性があります。
相続人には「遺留分」という相続する権利を最低保障する制度があります。
遺言書があったとしても、この遺留分を侵害されている相続人は遺留分を取り戻す(遺留分侵害額請求)ことも可能です。
遺留分は、配偶者、直系卑属(子や孫など)や直系尊属(父母、祖父母など)に認められていて、兄弟姉妹にはありません。
ですから、遺言書を書く時には、家族の状況などを考えて、遺留分にも注意する必要があるかもしれないですね
自分の想いをしっかり伝える
既に述べた通り、相続財産のほとんどが不動産だとすると遺言書の書き方も大変だと思います。
しかし、自分の築いた財産ですからどのように財産を遺すかも基本的には自由です。
自分の想う、相続の方法を考えて、遺言書にしたため、付言事項でその理由をしっかり明記し、できれば生前にその趣旨や想いをご家族にお伝えしてもらうといいかもしれないですね。
不動産の相続は注意が必要