相続のことを考えるウチナーンチュの皆さんへ

沖縄では、祖先崇拝の風習が強く、ご先祖様のご供養の年中行事も盛んですね。
お彼岸、清明祭、旧盆など家族・親戚が集まって、ご先祖様のご供養をするとともに、感謝の気持ちをお伝えする機会が多いのではないかと思います。

ご先祖様は今を生きる私たちを見守ってくださる大事な存在です。

一方で、トートーメーやお墓を引継ぐのが、誰なのかが重要ですが、昔のしきたり通りには祭祀の承継も難しくなっています。
相続の話をする中でも欠かせない、祭祀承継のことについて、解説します。

沖縄特有の相続事情の一つです。

トートーメーやお墓の祭祀承継者とは?

相続の話をしていると必ずと言っていいほど出てくるのが、トートーメー(仏壇)、お墓や親、祖父母、ご先祖様のご供養のことです。
沖縄特有の相続にまつわる事情の一つでもあると思います。

沖縄では先祖崇拝の風習が強く、また親戚一同が同じお墓に入る門中(むんちゅう)制度もあり、昔からのしきたりに沿った、決まりごとの多いご供養や年中行事が多々行われています。

一族の繁栄のためにも、これまでの風習を引継ぐことは、とても重要なことだと思います。

祭祀財産の承継は、相続とは別のルールがありますが、完全に切り離して考えることはできず相続に深くかかわることです。
祭祀に用いられる財産としては、系譜(家系図など)、祭具(位牌、仏壇仏具など)、墳墓(お墓や墓地)などがありますが、基本的には祭祀主宰者が承継することとなります。

沖縄では、お墓やトートーメーを引継ぐのだから、先祖代々の家屋敷や多くの財産も併せて相続する家督相続的な考え方が、一般的には残っているかもしれませんね。

しかし、祭祀財産の承継、祭祀主宰者の指定は、本来なら相続とは別の決まりごとになります。

一族の祭祀を執り行うものを祭祀主宰者と言います。

では、祭祀主宰者はどのようにして決まるのでしょうか?

民法で定めがあります。

祭祀に関する権利の承継

第897条 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条(※)の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

※(相続の一般的効力)
第896条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

民法第896条に規定された「相続の一般効力」に関わらず、897条の規定によって、祭祀に関する権利が承継されることが明確に書かれています。

また、祭祀主宰者は次の順番で決まるとされています。

  1. 被相続人の遺言書など(口頭でも良い)による指定
  2. 慣習
  3. 家庭裁判所の審判

繰り返しますが、誰が祭祀主宰者としてトートーメーやお墓を引き継ぐのか?と言ったことも沖縄ではとても重要なことです。

上記のルールで当てはめれば、祭祀主宰者である者が、本家の長男などのしかるべき者が承継することを生前に指定していることが多いのではないかと思います。
また、生前の指定がなかった場合でも、長男が引き継ぐことが慣習となっていることもあるかもしれません。
さらに、二男の家であれば、その家の二男が承継するといったようなしきたりもあるようですね。

被相続人による指定もなく、慣習もよくわからないような状況だとするならば、家庭裁判所が審判で決めることにあります。

しかしながら、民法にはどこにも「長男が承継する」と規定されているわけではありません。
ですから、長男だから祭祀財産を承継することが決まっているわけではないのです。
それが被相続人の指定であったり、慣習だとすれば承継することになるわけです。

さらに、昨今では、多様な家族形態や経済的な事情などで従来の祭祀のあり方に縛られると承継は難しい状況になっているのではないでしょうか。

沖縄独特の相続事情

僕も長男で、お墓やトートーメーがありますが、次の世代の子供たちへの承継方法は検討せざる得ない状況だと思います。
今までと同じようにはできないからです。

祭祀を承継する者がいないということもあるでしょう。
子供がいない。
子供はいても県外・海外にいる。
子供は女の子ばかりで嫁いで家を出ている。
一族(親族)の中にも承継する者がいない。

このような状況は珍しいことではありません。

また、仮に承継する者がいたとしても、沖縄の法事はお金も手間もかかるので、従来通りのやり方だとかなりの負担がかかると思われます。
冒頭で触れた一族門中が入る大きなお墓も沖縄にはありますが、この維持や行事の継承も課題となっているようです

祭祀の承継に関し、過去に耳にした事例です。

事例①
祖母の母方のお墓を祖母が所有しているのだけれども、祖母は養子だったので、そのお墓には血のつながっている人はおらず、養母も他のお墓に入り、知らない人ばかりが入っているお墓となっていて、本来持つべき人に戻したいとのことでした。
繰り返された祭祀の承継により、そのような状況になっていたようです。
これは当事者同士が話し合いで合意すれば、祭祀承継者を変更することは何ら問題ないかと思います。

事例②
一族のご供養のために、お墓を作り立派な仏壇を準備した方でしたが、次の世代の子供たちが祭祀承継については、無関心で押し付け合いに発展しそうで、らちが明かないので、3歳の孫を養子にして、その子を承継者として指名したい。
ご自身の祭祀主宰者としての責任を感じ苦しんでいるようにも思われますが、年端も行かない孫を祭祀承継者として指定した場合には、お孫さんも同じ苦しみを味会うことになるかもしれません。
僕は、お孫さんが意思を示せる成人まで待つべきだと思いますし、そうでなければ、自分の代で現実的なご供養の方法を考える必要があるのではないかと思います。

事例③
被相続人のご遺骨を誰が引き取るかで、相続人間でいさかいが起きる事例。
押し付け合いもありますが、どちらも引き取りたくて問題が起きることもあります。
被相続人との関係性や宗教観なども関係してきますので、ご供養に関しては難しい側面をもっています。

このような状況なので、県内で管理型霊園を運営する公益財団法人沖縄県メモリアル整備協会には祭祀の在り方、ご供養の仕方やお墓のことのご相談が絶えないそうです。
最近ではご供養の方法も多岐にわたり、必ずしもお墓も作るのではなく、永代供養も増えているようです。

核家族化や親せき間の交流が薄くなっていることから全国的には無縁仏が急増しており自治体が対応に苦慮しているとのこと。
沖縄でも今後増加していくことではないでしょうか。

なんにせよ人の御霊をご供養するわけですから、重要なことであると考えるのは自然の流れだと思います。

また、祭祀の在り方を大事にする沖縄には祭祀を承継するタブーと言ったものが多々あり、それが承継を難しくしていることもあるようです。

しかし、この現状においては祭祀の承継もできることを取捨選択して、承継していかなければ本来大事にしなくてはならない、親、祖父母やご先祖様をご供養するといったこともできなくなるかもしれません。

城間家がお世話になるお寺さんの住職と祭祀やご先祖様の御供養についてお話ししたことがあります。
「今の世の中は皆さん忙しく、家族の在り方も変わり従来通りのご供養はできないと思う。しかし、亡くなった方やご先祖さまへの感謝の気持ちを何らかの形で伝えられさえすれば、ご先祖様は子孫に罰を与えたたりはしない。ご先祖様は子孫を見守ってくれているのです。これまで通りのご供養ができないとしても罰当たりだとか思わなくてもいいのです。」
と言った趣旨のお話をしてくださいました。

そうなんです。
第一に覚えておいてほしいのは「ご先祖様は子孫を祟ったり、罰を与えるのではなく、見守ってくれる存在なのです。」

僕も城間家の長男として、今後の祭祀の在り方もしっかり考えていきたいと思います。

その他の沖縄特有の相続事情