相続のことを考えるウチナーンチュの皆さんへ
ウチナーンチュの気質の一つに、おおらかさがあると思います。
本土の方々が、旅行に来られて、感激されるのが、海や空の色、料理、そして人の優しさです。
南国沖縄の風土や歴史的な背景から、ウチナーンチュのせかせかしない、時間に縛られない、おおらかで優しい性格が、はぐくまれてきたのではないかと思います。
ただ、その気質が相続においては、問題を招くこともあります。
ウチナーンチュの「てーげー」や「なんくるないさ」の気質が招く、沖縄特有の相続事情です。
ウチナーンチュの気質「てーげー」と「なんくるないさ」
ウチナーンチュ(沖縄人)の気質として、難しいことを放置したり、真剣に向き合わなかったり、することがあるように思います。
あまりストレスのたまることはしたくなかったり、細かいことを気にしないとか、細かいことは考えたくないとか、または難しい問題をキチキチすることで人間関係に問題が生じたりすることを嫌うウチナーンチュの優しさの一面もあるかもしれません。
そんな、ウチナーンチュの気質をあらわす言葉として、良く聴かれるのが「てーげー」と「なんくるないさ」です。
「てーげー」は「適当」とか「いい加減」と言った意味があり、一般的には悪い意味で使われますかね。
物事を深く考えずに適当に対処するような感覚があります。
「ウチナー・タイム」と言われ、約束の時間を守らない習慣も散見されますが、これもてーげー気質からくることでしょう。
僕は、時間は厳守することを心がけていますが、ご年配の方などは、約束の時間通りに訪問したりすると「あい、先生、もーきたのね。早いね。準備するからゆっくりしててね。」と言われたりします。
「時間通りなんだけどな~」と笑ってしまいますが、この辺が沖縄の島のゆったりした雰囲気を作っている一つの要素なんでしょうね。
てーげーの使い方としては、例えば、工事現場で親方から弟子が「てーげーにさんけーどー!」と言われるならば、「いい加減なことをするな!」と怒られているような状況でしょう。
さらに、親が子に料理をしている時に「塩も醤油もてーげーでいいよ」と教えられるのは曖昧な感じがします。
一方で、相手にストレスを与えないように「てーげーでいいよ」と声掛けすることで、プレッシャーを与えないような印象を与えることもあります。
使い方によって、微妙なニュアンスの違いがあります。
「なんくるないさ」は、「なんとかなる」と言った意味ですが、苦しい時、どうなるかわからない時、先が見えない時に口に出したり、念じたりします。
先の大戦で、激戦の地となった沖縄で、ウチナーンチュが「なんくるないさ」の言葉を支えにして、戦後の苦しい生活生き抜いたとの話も聞いたことがあります。
藁にもすがりたい思いが込められていることもあります。
ただ、本来は「まくとぅーそーけー、なんくるないさ。」(正しいことを、誠の事をしていれば、なんとかなるさ)が正しい使い方のようです。
問題や課題に真剣に向き合わずに、放置しているだけで、なんとかなるといった意味ではないのです。
「人事を尽くして天命を待つ」が近いのではないでしょうか。
僕も、苦しい時、悲しい時、行き詰った時には、「なんくるないさ」と思うのですが、その前に出来る限り手を尽くすことを第一に考えています。
ただ、苦しいことや困ったことに「てーげー」に考え、「なんくるないさい」と思うことが大事な時もあります。
あまりにも深刻に考え、精神的に追い詰められたり、最悪の選択をするくらいなら「てーげー」に考えて、「なんくるないさい」と思ってもらいたいのです。
逃げてもいいんです。
ただし、相続において
「てーげー」や「なんくるないさい」はご法度
僕は沖縄県那覇市で遺言相続専門の行政書士として、多くの事例を見聞きしてきています。
相続においても「てーげー」や「なんくるないさ」と言った状況が垣間見られることがあります。
以前にご相談を受けた事例ですが、相続の相談事例では、祖父の遺産を巡って、孫達が相続手続きで困っているとのことでした。
本来なら、被相続人の祖父の最初の相続人となる子供達が解決しておくべきなのですが、面倒だからと放置していたために孫達が困っている状況だったのです。
沖縄では珍しいことではありません。
「なんくるないさ」(なんとかなるさ)と思って、「てーげー」(いい加減)に対応しているからかもしれません。
ウチナーンチュの気質が相続手続きを放置しているようなことに繋がっているのではないかと思います。
しかし、相続においては当事者がてーげーに考えて、問題を先送りにするとその後ろの人、つまりは次の相続人である子、孫や兄弟姉妹に問題が生じてしまうことがあります。
自分の代で相続手続きを完了しなかったために、子や孫の代が大変な思いをすることがあるのです。
昨今では、少子高齢化が進む日本において空き家空き地問題が顕在化してきています。
相続手続きがされていないために所有者が多数となっている不動産が激増しているようです。
一説によると、所有者不明の土地が九州と同じくらいの面積があるとか。
国土の限られた日本では、都市開発に支障が出たり、不衛生、害獣が住み着いたり、子供たちの通学路が危険にさらされたりと、様々な問題が発生していて、国や自治体があの手この手で、所有者不明土地や建物の問題に対処しています
最近では、実際に自治体が動き出しているケースもあります。
少し前のことですが、香川県で、空き家となっている建物が倒壊の恐れがあり危険があるとして、自治体が取り壊し、所有者(亡くなっている)の相続人のうち、連絡の取れる孫に費用を請求するとのニュースがありました。
これも、その孫の親、つまりは所有者だった方の子供達が解決していれば、何の問題もなかったはずです。
相続の問題を先送りし、いい加減に対応したせいで、次の世代に迷惑が掛かった事例です。
那覇市内にも倒壊しそうな空き家や草木の生い茂る土地を見かけます。
全てが相続問題とは言いませんが、多くのケースで相続がうまくいっていないこともあるのではないでしょうか。
相続手続きもストレスのかかることで、放置したい気持ちはわかります。
僕も2010年に父と祖母を亡くした時にそう思いました。
しかし、相続では当事者が逃げると問題が次の世代に引き継がれるだけです。
ですから、相続は「自分の代でなんとかするんだ!」と気概を持って対応してほしい。
そして、何をしたらいいのかわからない、解決策が思いつかない、自分たちだけでは手続きができない場合には、行政書士などの専門家に相談してもらいたいのです。
相続手続きは難解で複雑ですから、ストレスはたまるかもしれないけど、相談相手がいれば解決方法がみつかり、スッキリするのではないでしょうか。
そんな方のために僕ら専門家はいるのです。
そして、何よりも財産を遺す人は、家族に大変な思いをさせないように、相続は「てーげー」にしていても「なんくるないさ」と考えずに、遺言書を書き上げてほしいのです。
もちろん、遺言書作成のお手伝いも我々専門家にご相談くださいね。
専門家に相談して行動することで、何とかなるのです。
「まくとぅーそーけー、なんくるないさ。」(正しいことを、誠の事をしていれば、なんとかなるさ)です。